クライアント・サーバ方式による電子カルテシステムの構築

クライアント・サーバ方式による電子カルテシステムの構築

○竹田 明徳*、里村 洋一**、本多 正幸**、高林 克日己***
山崎 俊司**、鈴木 隆弘**、新井 健三**、上戸 隆*、金辻 信一郎*、
住友電気工業株式会社*、千葉大学医学部附属病院医療情報部**、千葉大学医学部第二内科***
○Akinori Takeda*,Youichi Satomura**,Masayuki Honda**,,Katsuhiko Takabayashi***
Shunji Yamazaki**,Takahiro Suzuki**,Kenzo Arai**,,Takasi Kamido*,Shinichirou Kanatsuji*
Sumitomo Electric Industries*,
Division of Medical Informatics,Chiba University Hospital**
Second Department of Internal Medicine Chiba University,School of medicine***


1. はじめに
 昨今のクライアントサーバシステムの広がりにより、データベースシステム(サーバ)と、 ユーザーインターフェイスシステム(クライアント)のそれぞれに用いるシステム・言語を 自由に選択できるようになってきている。MUMPSもデータベースシステムとしてM言語以外 からのデータベースアクセスの要求が高まってきている。
 今回Microsoft社のMS-Windowsでの開発言語Visual BASICのプロトタイプ作成容易性に 着目し、サーバ側にUNIX上で稼動するU-MUMPS、クライアント側にVisual BASICという組 み合わせで、電子カルテシステムのプロトタイプを千葉大学付属病院殿と共同で試作したの で、報告する。

2. システム構成
 本システムは端末として、DOS/Vパーソナルコンピュータ(486DX2/66Mhz,RAM 16MByte)を 使用し、MS-DOS6.2/V、MS-Windows Ver3.1上で動作するVisual BASICを用いてユーザー インターフェイスの部分を作成した。サーバデータベースはUNIXワークステーション上で動 作するU-MUMPS(住友電工製)を用いて作成し、端末の間でDDP(distributed data processing) 機能を用いて通信を行った。
 DDP機能とは、各ノードがそれぞれクライアントにもサーバにもなる互いにデータ交換 が可能なpeer to peer型のネットワークプロトコルである。本プロトタイプで利用したDDP 機能はDLL(Dynamic Link Library)形式で実装し、MUMPSのデータベースをクライアント側か ら利用する機能のみを持つ。利用可能なコマンドはGet,Set,$order(),$order(-1),$data(),zalloc,zdalloc,jobである。

図 1 本システム構成概念図


3. システムの概要
 本電子カルテシステムは(1)診療データ記録の標準化、(2)病名などの診療上の問題 点であるプロブレム単位の診療データ記録、(3)疾患に応じた、簡易で柔軟なデータ入力 画面構成、(4)診療情報のグラフィカルな表示の4つの点の実現を目的として開発してい る。
 本電子カルテでは、診療データの表現形式を統一されたものにするため、個々の所見及び 検査結果はチェック項目という形式で表現され、入力される。チェック項目は、主訴や症状 を含み、検査結果、各種のオーダの内容をも包含する。チェック項目の入力データの形式は、 項目毎に規定されていて、チェック項目辞書に登録されている。これによって、データの標 準化がなされ、主要な症状・所見を抽出したり、経過をグラフィカルに表示することが可能 となる。
 また、データの入力方式は、カテゴリカルな語句の選択方式を主体としており、迅速なデ ータ入力を可能にしている。
 入力画面とのデザインとデータベースとの間を柔軟に橋渡しする機能としてテンプレート 機能を実装した。テンプレート機能とは、ユーザによりカスタマイズされたデータ入力画面 で、必要な確認事項や、オーダを簡潔かつ欠落なく遂行するため、プロブレム(患者の診断、 病態、症状など)ごとに確認すべきチェック項目をセットしておき、受診ごと、あるいは定 期的に、その項目をユーザー側に問いかける機能である。
 主要な疾患、病態については、標準テンプレートと呼ばれるプロブレムとチェック項目の 標準的とおもわれる組み合わせが予め用意されており、この標準テンプレートから患者の 個々の病態にあわせてチェック項目を追加削除することにより、患者テンプレートと呼ぶ患 者毎の診療データ入力用ひな型を作成できる。
 テンプレートでは、チェック項目のデータは関係づけられたプロブレムごとに整理され、 格納される。このため、プロブレム毎に整理された診療記録が容易に作成できる。

4. 表示画面例
4.1. カルテ表示画面

 カルテ表示画面は従来の紙カルテの記載に近い書式で、入力されたデータを日付ごと、あ るいはプロブレムごとに整理して表示する。


4.2. カルテ記入画面

 図2の上部に示したようにプロブレムごとにチェック項目が配置され、前回診療時のデー タが表示される。チェック項目のデータは定量に段階付けしてあるため、迅速な入力が可能 である。幾つかの項目には検査間隔の属性が付加されており、所見の見落としや検査の出し 忘れを防ぐことができる。また、入力負担の軽減のため前回の診療データを自動的に読み込 むようにしている。

図 2 カルテ表示画面とカルテ記入画面


4.3. 診療データグラフ表示

 症状・所見のデータを、検査データ、処方データと同じ時間軸上にグラフ表示することに より、検査データ同士、検査データと処方の関連がわかり、患者病態がどう変化したか、検 査値の変化により処方した薬剤が効果があったかどうかなどが認識しやすく、診療上の意思 決定支援が可能となる。


5. おわりに
 高速なDBであるM言語と開発効率の良いGUI開発環境であるVisual BASICを組み合 わせて用いることにより、以下のようなメリット、デメリットが生まれた。

メリット

・データはサーバに蓄えられたM言語データベースをそのままアクセスするので、M言語を 利用しているシステムは従来のデータベースがそのまま利用可能。
・インターフェイスビルダーを備えたVisual BASICを用いることにより、短時間で操作性 の良いGUIデザインが可能
・診療データのプログラム実行をクライアントで処理することでサーバの負荷軽減になる。

デメリット

・クライアント・サーバで異なる2つの技術を習得しなければならない。
・$piece関数などサーバー側のM言語(MUMPS)独自のコマンドに該当するものがクライアン ト側のVisual BASICではないので、クライアント側で$pieceに該当するサブルーチンを用 意する必要がある。
・ Visual BASICでは引き数の数が不定の関数は扱えないという制約がある。そこで検索 キーが複数の場合は、Visual BASIC側で複数の検索キーの間にデリミタを入れ1つの検索 キーとしてDDP機能を呼び出している。
・過去カルテ検索などサーバデータの検索が長いとレスポンス時間が多少長くなるが、プロ トタイプシステム評価上実用的な速度で動作している。
 今後は、ドクターに試用評価していただくことと並行して、データのアップデートの少な い入力用の辞書をローカルデータベースにおきレスポンス時間の向上や診療データ入力部と 診療データ表示部などのブラッシュアップをはかり、プロトタイプシステムから実用システ ムへの実現をはかっていきたい。


謝辞

 本電子カルテシステムプロトタイプに対して、有益なご助言を下さった千葉大学医学部附 属病院医療情報部の方々に感謝いたします。



参考文献
鈴木隆弘 他:簡易な入力とデータの標準化を可能とする、テンプレート機能を備えた電子 カルテの試作、第14回医療情報学連合大会論文集、1994
山崎俊司 他:医学辞書、入出力テンプレート、3次元データベースよりなる問題志向型電 子カルテ、第14回医療情報学連合大会論文集、1994
Yamazaki S. Satomura Y. et al :The Concept of "Template" assisted Electronic Medical Record :Proceedings of the 8th world congress on Medical Informatics: P.249-252: 1995
診療記録、医学教育、医療の革新 --Problem-Oriented Medical Recordによる試み Laurence L. WEED, M.D.著 紀伊國献三他訳 医学書院 1973